『いもうとのために』
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本SS(短編小説)は、2011年から2015年ごろまでwisper様に掲載されていた作品です。
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突然の離婚だった。
あまりに唐突で、衝撃的な出来事だった。
自分の両親が離婚するなんて。
切り出したのは親父のほうだ。
別れは、夏のある夜の日にやってきた。
おふくろの頬に涙が伝ったのを、俺は見た。
妹はおふくろへ、俺は親父に扶養されることになり、事実上我が家は分断された。
その後、俺は何度もおふくろのアパートに通って、妹に相談した。
なんとか復縁させたい。
家族一人ひとりの存在がこんなに大きかったなんて、親父が離婚して初めて気づいたのだ。
家族を一つに戻さなきゃいけない。
おふくろと妹も同じ気持ちだったから話は早かった。
親父だけが、なぜか離婚を望んでいたのだ。
とても強い決意を以って。
9月になって、親父本人に復縁の考えがないか聞いてみた。
「後ろばかり振り返っても仕方ないだろ。前を見て歩いていかないといけない。カツヒコは、前のかあさんのことを早く忘れたほうがいい。でないと、新しいお母さんに失礼だぞ。」
「新しい・・・お母さんって?何言ってるの。」
「来週から新しい家族が増えるんだ。おまえには新しいかあさんと妹ができる。」
「ええっ!?なんだよそれ!!聞いてねえよ!」
「決まったことだ。来週早々二人が来るから。失礼がないようにな。新しい家族なんだ。」
そのときのやり取りを、こうやって思い出すたびに俺は怒りを覚える。
激しい、胸のうちから吹き上がるような感情だ。
まるで、元の家族の気持ちなんか気にしてない。
こんな人だったんだろうか?
この氷河のような冷たさ。
こいつが、俺の父だったんだろうか?
違うはずだ。
こんな人じゃなかったはずだ。
だから、あんなにおふくろは親父を愛していた。
自分以上に、おふくろは親父を大事にしていたじゃないか。
新しい家族。
母親に妹。
その二人が今日、来る。
来たら、俺も自己紹介しなきゃいけない。
親父には怒りを感じるものの、新しく来る二人にはどう接したらいいのだろう。
新しい妹ができる。
今まで一緒にいた妹の由佳とは違う、別の女の子。
変につらくあたるわけにはいけないかもしれない。
由佳みたいな素直な子だったら、大事にしなきゃいけないかもしれない。
スれた子だったら、どう接したらいいんだろう?
答えの見えない疑問ばかりが浮かんでは消える。
どうにも落ち着かず、ベッドに横になった。
お昼前に来るって話だからそろそろだろう。
11時を10分過ぎ。
嫌な娘だったら家にいたくないな。
そうしたら、かあさんのアパートに行けばいいか。
ずっとそこで住めばいいさ。
由佳もかあさんも、そっちのほうがいいだろう。
玄関でチャイムの音がした。
ばね仕掛けのおもちゃのように、俺は上半身を起こした。
来たんだ。
親父の呼び声が聞こえた。
「カツヒコ!カツヒコ、来なさい!」
二階の俺の部屋から階段を下りていく。
下りきったところで、玄関に立っている女性二人と目が合った。
俺の網膜が捉えたのは若いほう。
由佳と同じくらいの年頃の少女。
目と口元で少しだけ微笑んでみせるその表情に、俺の視神経は釘付けになった。
じっと見詰めあってしまう。
「カツヒコ、こっちは新しいお母さんの絵美歌さん、そっちはおまえの新しい妹の愛美さんだ。二人は・・・」
親父の言葉が遠くなる。
こんなに美しい女の子ははじめてみた。
ブラウスにクリーム色のベストを着たその胸は、由佳の比ではないボリューム感だった。
俺は早くも、彼女の体に性的な誘惑を感じてしまう。
「・・・、おいカツヒコ。どうした?」
めがね越しの親父の険しい目つきが、俺を我に返す。
「あ、あ、初めまして、カツヒコっていいます。大学二年生です。」
「メグミ、カツヒコさんは、○×大学××学部を現役で合格した、とっても優秀な人なのよ。」
「ええっ、そうなんですかぁ。じゃあ、家庭教師してもらえると助かりますー。えへへ、お兄さん、よろしくね。」
ぺこっとお辞儀をする。
「いえ、こちらこそ・・・」
俺がお辞儀を返す前に、親父の言葉がさえぎった。
「父さんはお母さんと大事な話をしているから、カツヒコはメグミさんに家の案内をするんだ。」
「ああ、分かったよ。」
親父は絵美歌さんを連れて茶の間に向かった。
メグミは、靴を脱いで揃えると俺に向き直る。
短いピンクのスカートに黒いニーソックスという服装が、男の性をしつこく刺激してくる。
「お兄さん。よろしくお願いします。いじめないでくださいね。」
「と、とんでもない!いじめるヤツがいたら、俺、許さないよ。」
「わあ!心強いんだぁ。」
「とりあえず君の部屋を紹介するね。二階なんだ。」
メグミはにこっと笑って、階段を上る俺についてくる。
俺の部屋の向かいが、メグミの部屋。
もともと、由佳の部屋だった。
「わぁっ、ひろーい!ここで暮らせるなんて、ほんと、信じられないですっ。」
「お金って、悪い人間のところにも集まるもんなんだよね。」
「へえ。そうなんですか?でも、悪い人間って?」
「まあ、親父みたいな人間さ。」
「そうかしら。私には悪い人に思えないけど。」
「うん・・・まあ・・・そうかもしれないね。」
あいまいな俺の答えにメグミは笑った。
「机もベッドも、なんだかすごく豪華ですねー。」
「・・・」
メグミは学習机の椅子に座って、何もおかれていない本棚を見た。
「誰かがここで長く暮らしてた・・・そんな気がします。誰がここにいたのかなぁ?」
「・・・」
「すぐ答えてくれないってことは、きっと、大事な人だったってことよね。」
彼女は振り返って、俺を見る。
「うふふふ、今にも泣きそうな顔してますよ。寂しいんですよね。大事な人を失うのって、すごく辛いことだから。でも・・・」
メグミの口元に楽しそうな笑いが浮かぶ。
何が楽しいのか、俺は違和感を感じた。
俺の気持ちをどこまでも見抜いているような口ぶり。
何がそんなに楽しいんだ。
「私がお兄さんの心を温めてあげる。今までの苦しさを忘れてしまうくらい。」
すくっと立ち上がると、メグミは俺に近寄り、背中に腕を廻してくる。
「な・・・!?」
「お兄さんの寂しい気持ちを全部受け止めてあげる。いいんですよ。私のこと、好きに使って。」
鼻先が触れ合うほど近くに、彼女は抱きついている。
目を細めて唇を押し付けてきた。
二人の肌が触れた瞬間、メグミは俺を強く抱きしめる。
「んふふふっ♪」
唇だけを重ね合わせて、離す。
誘うような艶っぽい微笑みを浮かべて。
「今までの妹さんとは、家族のままでいていいんですよ。」
「もちろんだよ、君がいてもいなくても、妹は妹なんだからっ。」
「でも私は、お兄さんの家族じゃなくて・・・恋人以上の関係になりたい!」
「そんなっ、間違ったことになるよ。」
「あんなに見つめてくれたんだから、本当はお兄さんだってそうなりたいはずよ。自分に素直にならなきゃ。」
「こんなに綺麗な人だとは思わなかったから。」
「私も一目惚れしちゃった。お兄さんとなら、赤ちゃん作ってもいいって思っちゃう。」
「じょ、冗談、いうもんじゃないよ。ちょっと待とうよ、冷静にならないと。」
「冷静になっても、子供を産むことばかり考えちゃうかも?私、性欲がかなり強いんです。」
「ええっ?そうなの?」
「気に入った男の人見ると、欲しくなっちゃうんです。男の人の体も、赤ちゃんも。貪欲なのかなあ。」
邪な欲望が下っ腹の男性器をそそのかす。
「ごめんなさい、会ったばかりなのに。こんなこと言って。でも・・・」
見れば見るほど可愛い娘だった。
一度交われば、もう妊娠するまで止まらないだろう。
「お兄さんにとっては、いいことずくめだと思うんだけど。」
俺の胸の中で彼女は体を捩った。
ふにゅっ。
豊かな乳房が俺の胸板に吸い付いてくる。
「お兄ちゃんと毎日いっぱいセックスしたいなぁ〜♪」
甘えるメグミの声が俺の理性を突き崩す。
目で、ぬくもりで、全身で愛を求めてくるメグミ。
どうにかこの状況を終わらせたい理性と、さらに次の状況に進めたい本能が激しくぶつかりあい、胸の鼓動を高めていく。
再びメグミの唇が近づいたとき、俺は自ら彼女の口を犯し舌を絡めてしまう。
結局本能にはかわないのか。
メグミをベッドに導くと、側位で服のうえから愛撫を楽しむ。
幸福そうな妹をみて、キスを繰り返してしまう。
それにしても、理性とはこのように弱いものなのだろうか。
その答えを、メグミの甘く早熟な身体の中に見た気がした。
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