『しあわせな新世界』

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本SS(短編小説)は、2011年から2015年ごろまでwisper様に掲載されていた作品です。

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ケンヤは夢を見ていた。

視聴覚室で見た立体動画を、マミと二人で見る夢だった。

薄暗い部屋。

動画には、青空に浮かぶいくつもの巨大宇宙艦が映されている。

「このころのディケーア人は、大きな戦争をしていたの。前線基地が必要だったら、有機体が豊富な地球を選んだ。」

夢の中にミユキは登場せず、解説するのはマミの役目だった。

「ユウキタイって、なに?」

「有機体にはいくつか種類があって、人間は多目的性有機体、そのほかの生き物は、被収奪性有機体っていうの。ようは、色々役に立つ奴隷が地球には多いってこと。」

「奴隷って言い方ないでしょ。ディケーア人と地球人は助け合って共存してるんだよ。」

「人間はもう身も心もディケーア人に支配されてるの。共存なんかじゃない。支配が完全すぎるだけ。ディケーア人はもう地球にいる必要がない。遠隔操作で動く、あたしたち人形しかいない。」

「ええっ、でも、役場とか街にいっぱいディケーア人がいるじゃない。あれは?」

「全部人形よ。人形はメス型だけじゃないんだから。」

「信じられない!」

「人間はディケーア人に似ているから、とても使いやすい奴隷よ。精液と卵子を人工孵化装置に放り込めば人間を大量生産できるし。兵隊に使ってもいいし、単純労働にも使える。いくら死んでも簡単に産み出せるから、すごく便利なの。」

「そんな!僕たちはモノじゃない!そんなひどいことされたくないよ!」

「そう・・・そうだよね。」

マミは悲しそうに目を細めた。

「でも、こうして会えたのは、君がモノとして管理されているから。それに、管理しなければ君の遺伝子は反乱分子を産みだすのよ。」

唐突に目の前が暗くなる。



しばらくして、ケンヤは目覚めた。

何か夢を見た気がする。

詳しいストーリーは思い出せないが、楽しい夢ではなかったはずだ。

もやっとした不快感は、しかし、心身の覚醒に伴って急激に減衰した。

体を起こして背伸びする。

いつの間にか、病衣姿に着替えさせられていた。

照明が照らす白い部屋の窓からは、街の灯が見える。

マミはいない。

ベッドの傍には小さな白いテーブルがあって、その上に電子ペーパーが置かれていた。

文具メーカー『ロクヨ』のロゴが入った、よくある電子ペーパーだ。

ケンヤは表面に触って電源を入れてみた。

ポップ調のタイトル画面。

ディフォルメされた花や鳥が、画面を楽しそうに彩っている。

画面のメニューは次のように表示されていた。

『 配偶者登録申請システム

  利用者登録
  配偶者検索
  配偶者登録申請
  利用状況確認

  利用者      高浜 健也
  配偶者数        0名
  登録可能配偶者数    8名 』

(なんだろ、これ・・・とりあえず検索かな。)

検索すると、画面いっぱいに顔写真のサムネイルが次々と表示されていく。

(うわあっ、可愛い子ばっかりだ!)

めくるめく美少女たちの競演に視線が定まらない。

だらしなく口が開いてしまう。

しばらく堪能した後に、画面中央付近の女の子を選ぶ。

即座に画面は左右二つに分かれ、画面左には女の子の全身像、右には詳細なプロフィールが現われた。

(藤川若葉・・16才・・)

ドキドキしながらプロフィールを読む。

下段には写真表示ボタンがある。

(制服、水着、今日のスペシャル、オカズ・・・)

充実の写真ボタンに興奮が高まる。

その間にも、画面左の女の子はウィンクしたり、髪をかきあげたり、激しく誘惑してくる。

ケンヤはどんどん堪らない気分になってきた。

ゴクリとツバを飲み込んで、『オカズ』ボタンを押そうとする。

と・・・

「私と結婚しよ?ね?ねっ?」

電子ペーパーを通して、契りを求めてくる若葉の声。

その美少女の一言に、ケンヤの脳髄は蕩けた。

指先は『オカズ』ボタンから離れ、画面右下の『配偶者登録申請する』に向かう。

「嬉しい!私を選んでくれるのね!さあ、早くボタンを押して。ボタンを押すだけで私と結婚できるんだから!」

体中がどんどん熱くなる。

若葉の姿は、まるでケンヤの遺伝子そのものを興奮させてくるようだ。

声を聞くだけで性的な高ぶりが全身を襲い、ただ結ばれることだけを望んでしまう。

迷いなく、申請ボタンを触る。

突然。

画面はクリーム色になり中ほどに文字が表示される。

『ご不便おかけしますが、利用者”高浜健也”は特別教育中です。
 教育終了まで登録申請機能はご利用できません。』

数十秒間その画面を見て、我に返る。

(じゃあ、今のマミさんの指導が終わればさっきの子と結婚できるのかな・・)

『戻る』ボタンを押すと、元のメニュー画面に戻る。

再び検索。

女の子たちのサムネイルが表示される。

画面左下に現在の表示ページのアイコンがあった。

(1、2、3、4、5・・・ってことは、5ページ以上あるのか。すごい数のお嫁さんだなあ。皆、ロボットなのかな・・・)

若葉とマミのことを頭に描く。

(でも、でも・・・ロボットでいいや。あんなに可愛い子なんだもん!欲しい!ロボットのお嫁さんが欲しい!)

ページをめくる。

2ページの終わりのほうに、マミの顔写真を見つけた。

(マミさん・・・さっきは浮気してごめんなさい。)

マミのサムネイルに触れると、先ほどと同じように全身像とプロフィールが表示される。

ワンピースの水着姿のマミは投げキスすると、楽しそうに笑っていた。

プロフィールの『一言の欄』。

『ケンヤくん、ケンヤくんケンヤくんケンヤくんケンヤくん大好き!』

ケンヤは即、申請ボタンを押した。

やはりクリーム色の画面に戻り『ご利用できません』である。

(ああ・・・残念・・・)

全身から出たようなため息が口から漏れる。

ガチャっという音。

部屋のドアが開いた。

電子ペーパーの電源を切る動作をする前に、マミが入ってきた。

エプロン姿で、配膳トレイを両手で持っている。

「あら、起きてたんだ?」

「え、あ、その・・・」

「ははーん。さては、それ見てビンビンになってたんでしょ?誰でビンビンしてたのかな〜?」

「いや、だから、それは、その・・・」

マミはケンヤの傍までくると、テーブルの上に夕食を置いた。

ミートソース、ビーフシチュー、オニオンスープ、シーザーサラダ、メロン。

「さあっ、どうぞ召し上がれ。」

「ありがとう・・・」

若葉を選んでしまったことにいいようのない罪悪感を感じた。

ケンヤはベッドから降りて、食事の席につく。

「いただきまーす。」

「はーい♪おかわりもありますからね〜。」

ビーフシチューを啜りはじめる。

「どう?」

「すごくおいしいです。家で食べるのもおいしいけど、それよりおいしいや。」

「ケンヤくんのお母さんは、昔のハイエンドモデルだからね。お料理も上手でしょうね。」

「いや、モデルじゃないんです。住宅設計士っていう仕事を長くしてます。」

「そうそう、そうだったね。ごめんなさい。モデルさんじゃなくて、ね。あたしはメインストリームモデルだけど、スループットでいけばケンヤくんのお母さんの6倍だから。」

「ん?なんか難しい話ですね。よくわかんないけど。」

「えへへっ、分からないのを分かって言ってるんだけど。それで、どう?そのお嫁さん検索システムは。いい子いた?」

「え?あ?え・・」

「ほら、とぼけないの。かなりいい子ばっかりでしょ?」

「すごすぎてビックリです。」

「思わずマミを探したでしょ?」

「もちろんです、登録申請ボタン押しちゃいました。」

「残念でした〜。ここ3日間の特別教育が終わるまでは申請できないの。」

「・・・がっかりです。」

「で、他には誰かいい子いた?」

「・・・」

「素直に教えてくれないと、マミ、悲しいなあ・・・」

「ごめんなさい、最初に、フジカワ・ワカバさんって子で申請したんです。見てたらその、我慢できなくてつい・・・」

「はぁーん、若葉ちゃんかぁ。今のケンヤくんだと、アソコから血が吹き出るまでエッチしてそうね。」

「自分でもそう思いました。」

「君の場合、同時に8人までお嫁さんを持てるよ。お嫁さんに飽きたら”お別れ”して別なお嫁さんを”お迎え”できるの。だから、やろうと思えば、そのペーパーの全員をお嫁さんにできるのよ。」

「そ、そ、そ、それは・・すごい・・ですね・・・」

「愛を楽しむもよし、気持ちいいことに耽るもよし、ってね。そんなことしてる間にどんどん年だけとって死んじゃうのよ。」

「でも、マミさんとか若葉さんとかに囲まれて生きていけるなら幸せですよぉ。」

「すっかり鼻の下長くしちゃって。ほら、早く食べないと冷めちゃうよ?」

ケンヤはパスタを掬った。

「若葉ちゃんにはあたしから言っておくわ。ケンヤくんちにお伺いして、ご両親に挨拶することになるって。」

「!!」

「問題は、あたしたちを相手にして君の体が持つかどうかよね〜。その年でお嫁さん二人だなんて。大事なところ、ホントに出血しちゃうかもしれないわよ。」

ケンヤはパスタを喉に詰まらせ、しばらくむせ込んでいた。

〜おわり〜


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