『淫魔猟兵対美少女戦士』

<1>-<2>-<3>-<4>-<5>-<6>-<7>-<8>
本SS(短編小説)は、2004年から2015年ごろまでWisper様に掲載されていた作品です。

<1>

時計は午後10時半を指していた。

図書館でテスト勉強していたせいで、すっかり遅くなってしまった。

まかりなりにも僕の高校は進学校だから、試験準備は手が抜けないんだよね。

家路を急ぐ僕は、公園を通ることにした。

いい近道なんだ。

ここを通れば、あと10分で自分の部屋に戻れる。

この小さな地方都市では、夜中の公園なんて誰も居ない。

大都会なら、アベックやらやばい人やら居そうなものだけど。

いるのは猫か、犬か、もしくは・・幽霊くらいなもんだろう。

僕は公園の入り口に差し掛かると、競歩のごとく足を速めた。

ここって、無駄に広いし、それに、結構自殺者多いんだ。

木からぶらーんとか、そんな死体がよく発見される。

チンピラとか非行少年の集団もいやだけど、浮かばれない死者の霊もやだよなあ・・

樹木が多くて視界が通らない。

自然公園としての色彩が強くて、休日の昼はいい散歩コースなんだけど。

夜は肝試しコースだ。

黙々と進みつづける。

大丈夫、なにもでやしないさ。

無事にマンションまでつける。

ああ、そうそう。僕は今一人で暮らしてるんだ。

家族は別な町にいる。

いろいろわけがあってね。

「チョット・・」

急に声がした。

全身でびくりとする。

死ぬほど驚くとはこのことだ。

僕は勇気を出して振り返る。

誰もいない。

「私たち、人を探してるのよね。」

女の声だ。

周囲に目をやるが、鬱蒼と生える木々が邪魔して、声の主が見当たらない。

「なんですか?私の知ってる人だといいんだけど・・」

そよ風がそっと木葉を揺らすような、優しい声。

なんだ、植え込みの向こう側で女の人が二人、話してるんだ。

「知ってる人だと思うわよ。」

「あら・・・誰かしら。」

「私たちが探してるのは、あなたなの。」

二人の女の声は、僕の西側の植え込みの向こうからする。

片方は、強い調子で詰問する口調。

もう片方は、穏やかで優しそうな声。

「私を探してるのですか?じゃあ・・」

「そういうこと。」

「なら、あなたたちの仲間と同じ場所に送ってあげます。」

「何をっ!私たちは仲間の仇討ちにきたのよ!」

「ふふっ、仇討ちじゃなくて、返り討ちにしてあげるわ。」

な、なんだ!?

まさか、不良同士の抗争か?

僕は好奇心に負けて、植え込みのほうへ近づく。

「馬鹿ね、どうやって返り討ちにするっての。自分が置かれた状況、わかってんの?」

「分かってるわ。烏合の衆が5人。私を囲んでる。それと、お馬鹿なリーダー格が1人。」

優しい声の主は、毅然とした態度で言い放つ。

その言葉たるや、すさまじい自信を感じさせるのに十分だ。

僕は身を低くした。

高さ2m近い植え込みに隠れて、枝葉を少し押しのけた。

植え込みの向こうが見える。

電灯に照らされたベンチにそばで、7人の制服の女の子がいる。

僕と彼女たちの距離は約5m。

灯りのおかげで、表情まで分かる。

6人は同じ制服で、1人だけが違う制服。

5人で輪をつくり、制服の違う1人を囲んでいる。

もう1人は腕組をして、包囲網には参加していない。

くそう、僕は制服に詳しくないのだ。

この町に来て半年たつが、どの女子高がどんな制服かいまだ頭に入っていない。

ここって女子高多いからなぁ・・

戦闘員的5人娘は、じりじりと進み出て包囲網を狭める。

「安心して。殺しはしないわ。」

リーダー格らしい腕組の女が言う。

「殺しはしないけど、あなたには私たちの仲間になってもらうわ。」

「まぁ。優しいのね。私は、あんたたちを最初から殺すつもりよ。」

たこ殴りにされる直前なのに、囲まれた子は動じない。

それにしても、優しい声で、こんなこと言うなんて信じられない・・・

「フフフ。」

「ずいぶん強気ね。変身しなければ、あなたなんか虫けら同然なのよ。」

周囲の戦闘員娘が、女の子に掴みかかる。

羽交い絞めにされる。

「そんなことで変身の邪魔ができると思ったの!?いくわよ!!変身!ラブ・アンド・ビューティー・エスカレーション!!」

囲まれた子が青白い光を放ち始める。

「うわっ・・」

それを間近でみた戦闘員5人は手で目を覆う。

光は彼女自身、そして周囲のなにもかもを飲み込みすごい速さで膨張する。

あっという間に僕の目の前が真っ白になった。

なんなんだ!?

「愛と美と正義の戦士!!ラブリーナイト参上!!」

あたりの空気を切り裂く、鋭い叫び。

「ぬ、おお、目が・・」

「あーら、この姿が見られないのね。せっかくだから、見えるようになるまで待ってあげるわ。」

僕の目もチカチカして、なかなか視力が戻らない。

なんて眩しさなんだ。

それに、さっきの叫び声は。

まさか、ローカル放送局の新番組なのか?

実写版美少女戦士とか、東京じゃ放映になってるみたいだしな。

どんな小道具を使ったのか、すさまじい眩しさだった。

数秒ほどして、ようやく目が見えるようになる。

包囲網はすでに解け、6人は横一列にならんでいた。

それと正対する形で、1人の変身ヒロインが立っている。

オレンジのミニスカートに、セーラー服とレオタードを足して2で割ったような戦闘コスチューム。

肩にかかるセミロングの髪。

片手には、右手には刀身の細い長剣。

も・・・

萌えっ・・・

僕の目は、形のいいむっちりした太ももにくぎ付けになった!

「むっ、ふん。変身したからには・・私がじきじき倒してやるわ。」

と、リーダー格の女。

「あーら♪残念ね。一撃で皆吹き飛ばしてあげるわ。」

「なにをっ!」

「それっ!!ピュアーラブ・ワールウィンド!!!」

そう叫ぶと、急に剣が赤く輝き始めた。

変身ヒロインは、6人のほうへぴょんと飛び込む。

「やっ!!」

剣を横に一振りし、空を切る。

ドドドド・・

低い轟音が響き渡る。

まるで見えない大型トラックが目の前を走っていったようだ。

「あはっ♪大成功。」

「何が大成功だ!何も・・」

そこまで言って、リーダー格の女は表情を歪めた。

「きゃっ!!」

わき腹から、一瞬、噴水のように液体が噴出す。

他の戦闘員4人は、次々と下半身と上半身が切れて、ばたばたと倒れる。

即死しなかったのは、リーダー格と戦闘員の1人。

僕は、全身の血が一気に引くのを感じた。

これは番組の撮影でもなんでもない。現実の人殺しだ。

「あらやだ。大成功でもなかったわね。残っちゃった・・」

リーダー格は、わき腹を押さえて苦しそうにし、うずくまる。

生き残った戦闘員は、放心状態になったのか、ぺたりと座り込む。

「ミーナ、早く逃げて、逃げるの。」

ミーナと呼ばれている戦闘員は、答えない。

「み、ミーナ!しっかりして!!早く逃げるのよ!」

「大丈夫よ。次の一撃で、皆同じ場所に送ってあげるわ。」

僕の全身は震えていた。

次の一撃って。

皆殺しにするつもりなのか。

「これで終わりにしてあげる。ピュア―ラブ・・」

「やめろっ!!!」

僕は怒号とともに、植え込みの中から飛び出した。

女の子たちのほうに猛然と走り出す。

一気に、僕に視線が集中した。

「大丈夫か。」

僕は、わき腹を押さえるリーダー格の女に駆け寄った。

艶のあるロンゲの、大人っぽい子だった。

かがんで話し掛ける。

「すぐ救急車呼ぶから。」

「なっ・・あんたは・・」

「喋るんじゃない。ほら、血が・・」

僕は彼女のわき腹を見た。

血ではない、白い液体が流れ出している。

「ダメよ!そいつからはなれて!!悪魔なの!!」

僕はその言葉を背中で聞いた。

悪魔・・

僕は振り向いた。

「何をしてるの!早く離れなさい!!」

「悪魔・・」

「人じゃないの!悪魔なのよ!」

「・・・・でも、死にそうだ。」

「そうよ。悪いことをした報いよ。」

僕は、瀕死の女悪魔を見た。

目をつぶり、肩で呼吸している。

「こんなに苦しそうにしてるじゃないか。このままでは、死んでしまう!」

「私は、大丈夫よ、まだ、すぐには死なない。んっ!」

女悪魔は答えてすぐ、ごほごほと咳き込んだ。

「横になるんだ。」

「私たちはそんなにやわじゃない。これしきじゃ、死なないわ。」

「そうか。でも、無理しちゃだめだ。」

僕は、その悪魔に力をかして、体を横たえさせた。

「ありがとう、人間・・」

「何をしてるの。早くそこをどきなさい。」

僕は立ち上がる。その声に逆らうために。

女戦士は、いらだっているようだ。

「お願いだから、どいてもらえないかしら。今から、止めをさすのよ。」

「僕はどかない。」

「どうして!!」

「悪魔だろうが人間だろうが、命は命だ。仮にキミが正義の戦士だとしても、むやみに命を奪うことは間違っている。キミの正義は、弱わり苦しんでいる敵を殺すことなのか?」

「くっ!!!!」

その表情からは彼女の逆上する感情が読み取れた。

その瞬間、僕は彼女の信念の誤謬を確信した。

「正義の戦士ならば、弱く苦しんでいるものを殺すことはない。そして愛の戦士ならば、敵ですらも愛し、許すだろう。キミの言動から察するに、キミは愛の戦士でも正義の戦士でもない。単にうわべだけの美しさをもって自らの存在を誇示する偽善の者なんだ!」

「いいたいことばかりいって!!この屁理屈男!!」

僕より年上らしい女戦士は、僕を怒鳴りつけた。

「僕の言葉に腹を立てた今のキミこそが、キミの本来の姿だ。」

僕も、この子に腹を立てている。

この子は、命を軽々しく扱いすぎる。シュバイツァーの格言集でも読むべきだ。

「わかったわ。あなたもこの淫魔たちの奴隷なのよ。だから、かばうんでしょう?」

「なんの奴隷だって?」

「しらばっくれて!いいわ、あなたもあの世に送ってあげる!いくわよ!ピュア―ラブ・・・・」

彼女のもつ長剣が、赤く輝き始める。

僕は怖くなかった。

殺すなら殺せ。

僕は今、自らの信念に基づいて、この女が一生忘れられない言葉を言ったつもりだ。

彼女の心に深い傷を与えるさっきの言葉が、僕が生きていたという証なんだ。

なんか、僕はそれで満足だ。

本当に正しいことをしたのだ。

「ワールウィンドっ・・キャアッ!!」

彼女が剣を振ろうとしたとき、その手元でばりっと電光が飛んで、剣が弾けとんだ。

剣は、僕のほうに飛んできてすぐ目の前に突き刺さった。

「そんな・・ファタリス、あなたまで、私を困らせるの!?」

僕は地面に刺さった剣を握ると、引き抜いた。

思ったよりずっと軽い。

軽いどころか、まるで羽毛のようだ。

「ダメ、ファタリスを返して。それは私のものなの。」

僕は剣を持ち替えて、柄が彼女に向くように、投げ返す。

と、剣は空中で一回転し刃を彼女に向け、彼女のほうへ飛んでいく。

「あぶなっ・・!」

女戦士はすんでのところで、飛んできた剣をかわす。

「だいぶ、嫌われたみたいね・・ファタリス、かなり怒っちゃった。私が悪かったわ。お願いよ、機嫌直してもらえないかしら。」

彼女は、必死に剣に話し掛けている。

この様子から察するに、剣自体が意思を持っているのだろう。

俄かには信じられないが。

彼女は何度か剣に触ろうとするとするが、そのたびに電光が走り、手を引っ込める。

「もう・・いいわ!勝手にしなさい!知りません!」

とうとうしびれを切らして、彼女は剣に怒鳴りつける。

彼女がてぶりを交えて何か唱えると、突如上空から光が彼女に降り注ぐ。

「フン、またね。屁理屈男。」

その言葉を残し、彼女も光の柱も跡形もなく消える。

僕は数秒おいて我に返り、振り返る。

と・・

なんてことだ。

誰も、いなくなっている。

まっぷたつになった死体も、放心状態の子も、瀕死の女悪魔も・・

周囲を見回して、さっきのできごとが現実であることを証明してくれるのは、地面に突き刺さった剣『ファタリス』しかない。

僕は自然と、剣のほうへ歩み寄る。

あと数歩というところで、剣はまばゆい光を帯びてその形をかえる。

どんどん縮んでいき、地面の上の一つの塊となった。

僕はしゃがんで、その光の塊を見つめた。

待っていると、次第に光は弱くなっていく。

完全に光を失うと、そこには一匹の黒猫がいた。

「みゃーーー・・・」

自分の首を気持ちよさそうに掻いてみせる。

僕が猫に触ろうとすると、それはぱっと逃げて、その辺の茂みへ姿を消した。



数日後の土曜日。

秋晴れのすがすがしい朝だ。

パソコン部の僕は、朝練習なんかないし、まして休日に学校で練習なんてこともない。

土日をフルに余暇にまわすことができる。

もちろん、勉強もしなきゃいけないけど・・。

試験が近いといっても、午前中ちょっと遊んだくらいでバチはあたるまい。

僕は起きるとすぐ、パソコンにかじり付いて、オンラインゲームを始めた。

サーバーにつなぐとウィンドウがポップアップして、アップデート情報が表示させる。

『変身システムが実装されました!!』

なになに、「制限時間つきでキャラの能力値を数倍にすることができます」・・

変身かぁ・・

なんか、タイムリーだな・・

この間のこと思い出しちゃうよ。

CRTを見つめて、ぼんやりとする僕。

ぴんぽーん。

チャイムの音に、僕は我に帰った。

「あ、はーい。」

僕は腑抜けな返事をして、玄関に向かう。

とりあえず、のぞき窓から外の様子をうかがう。

押し売りとかじゃないよな?

私服の女の子が二人、外に立っている。

あまり商売って感じじゃないな。

募金の呼びかけかな?

僕は戸をあけた。

「はい、なんでしょう。」

「私たちは、先日、命を助けていただいたものです。お礼がしたくて・・」

「!!」

「本当に、ありがとうございます・・」

二人の女の子は、声をあわせて頭を下げた。

「いや、そんな・・とりあえず、ここで立ち話するより、中へどうぞ。」

「はい、ありがとうございます!」

リーダー格の女の人は、明らかに僕より年上だ。

高3くらいだろうか。

以前あったときのように、ロングの、流れるような髪。

メガネはしてないけど、級長というか優等生的な雰囲気を漂わせている。

そして、あのときミーナと呼ばれていた子。この子は、僕と同い年くらい。

15か、16才位だな。

ポニーテールで、元気そうな子だ。

ちょっと遊んでそうな服装のせいか、コンサート会場にいそう。

二人とも、特別に魅力的な感じはしない。

僕は、茶の間に二人を案内し、ソファに座らせた。

「ほんとうに、びっくりしました。あんなことがあるなんて。」

「そうでしょうね。でも私たちも驚きました。我らが難敵を口だけでやり込める人間がいるなんて。私はリサ。この社会では逢瀬理沙と名乗っています。こっちは、妹のミーナ。逢瀬美奈です。はっきり申し上げますが、私たちは、淫魔という悪魔です。人間ではありません。」

い、淫魔だって!?

よくファンタジーRPGで、おっきなお友達がはぁはぁする、いわゆるサキュバス!?

「い・・いんま、ですか・・」

「ご存知ですか?」

「は、はい・・・」

「フフフ、わが種族、この世界では、だいぶ知名度が高いみたいですね。」

「僕なんか、いい餌食なんじゃ・・」

「ウフ、そうですねえ。」

リサさんはそういって微笑むと、妹のほうを見た。

「ミーナ、あなたはどう思う。」

「うん、とても、その・・おいしそう。」

「だめよ。この方は命を助けてくださった方なんだから。」

「ええ、それはわかってるわ・・ところでお名前は・・」

「あ、僕ですか。申し遅れましたが、カルロビッツ・秀平といいます。」

「カルロビッツ・・珍しいお名前ですね。カンジでなんと書くのかしら・・」

リサさんは、首をかしげた。

「カルロビッツは、カタカナなんですよ。漢字じゃないんです。僕、親父がドイツ人で、母親が日本人なんで、変わった名前なんです。」

「ドイツって、どこの国だったかしら?タイペイ合衆国のとなりだったかしら?」

リサさんはまた首をかしげた。

ってか、どこだよ、タイペイ合衆国って。

「確か、ドイツは、フランスのとなりだったわ。」

と、ミーナ。

「そうです。フランスのとなりの国ですよ。まぁ、秀平と呼んでもらえれば。」

「では、秀平さん。まずはお礼のことなのですが・・」

リサさんは一呼吸おく。

いきなり、ふぇらちおするとか言い出すんじゃないだろうな。

「二つのお礼を用意しました。できれば両方受け取って頂きたいのです。」

「えぇ、悪いなぁ。そんな。」

「まず、お金を用意しました。1000万円あります。」

「どおっ!!い、いっせんまん??」

「ええ。もちろん偽札ではなく、本物のお札です。」

「そんなお金、いったいどこから。信じられない。」

「あら、私たちは悪魔ですよ。これくらいのことは、わけありません。それから二つ目のお礼ですが、それは、こちらのミーナです。」

げぇっ!!

ま、待て!!

ミーナは、頬をぽっと赤くして、もじもじする。

「我が妹ミーナは、もちろん淫魔ですが、まだ生まれて間もないため、殿方をよく知りません。人間の女で言えば、処女と同じ。さらに、生まれつきの優しい心と一途な想い、そして母性的な愛情に満ちた子です。その上、変化の術にたけていますから、秀平さんの理想の女性を体現することができるでしょう。」

「やだぁ、ねぇさん、そんなに誉めないでよ。あたし、恥ずかしい。」

「ま、待ってくれ。お礼がミーナさんって、どういうことなんだよ。」

「ミーナを好きにしていいということですよ?家事奴隷にするのも、もっと別なことに使うのもあなた次第ということ。」

「秀平さんが助けてくれた命です。だからあたし、秀平さんにお礼したいの。自分の命で。」

と、ミーナ。

「急すぎて、どっちも受け取れないよ。心の準備ってものが・・」

「フフフ、そうでしょうね。あなたの気持ちはよく分かるわ。今すぐ受け取れというわけでもないし、無理に受け取れというわけでもありませんから。」

「びっくりだよ。」

「あたし、受け取ってもらえないの・・?」

ミーナの表情はどんどん曇っていく。

困ったな、フォローしないと。

「いや、受け取らないんじゃなくて、いますぐはチョットってことだよ。」

「今日からここに住むつもりだったのに・・ガッカリ。」

ミーナはため息をつく。

「・・秀平さん、実はこれだけのお礼を用意したのには、わけがあるのです。」

「わけ?」

「あなたの力をお借りしたいのです。口先ひとつで我らが難敵ラブリーナイトを撃退したお知恵を、拝借できないものでしょうか。」

「お知恵拝借って、別に、そんな知恵はないよ。」

「我々淫魔族は、この日本を、そして世界に君臨すべく、浸透地域を拡大し続けています。この活動の妨げとなるのがラブリーナイト。幸運なことに、この町でのみ存在が確認されていますが、その力は圧倒的で、我々が束になっても勝ち目がありません。先日のことで痛いほど分かりました。これでは被害は増えるばかりです。」

まぁ実際、リサさんは痛そうにしてたしね。

「なるほど、で、どうやったら倒せるかって?」

「そうです。何か妙案はあるでしょうか?」

「それより僕は人間だよ、いってみれば、立場上ラブリーナイトとやらの味方のはずだ。それなのに、僕に協力を求めるわけ?」

「ええ。あなたは、私たちを一度助けてくれました。だからまた、助けてくれるはずです。あなたは、助けを求めるものの味方です。」

「勝手な思い込みだよ、そんなの。」

そういいつつも、僕は目の前の二人を親しく感じた。

この二人が僕に親しみを抱いているから、だろうか?

「僕を、悪魔たちの戦いに引き込むつもりなんだ?」

「引き込むだなんて。あなたはそもそもそういう運命の持ち主なのですよ。ときが満ちて私たちは出会った。またときが満ちれば、あなたは私たちとともに生きるのです。」

そんな風に言われても、悪い気はしない。

不思議だ。

むしろ、どこか居心地がいいような?

「秀平さんは、あたしたちに希望を与えてくれるわ。そんな人に見えるの。」

希望。悪魔にも希望があるんだ。

「あたしたち、このままでは皆殺されてしまう。だから、秀平さんがあたしたちの前に現れて助けてくれるの。」

しばし黙って、僕は答える。

「こっちも変身すればいいのさ。」

「やはり、そうですか。」

僕は、さっきのゲームのアップデート情報を思い出した。

相手は悪魔だ。

もっともらしい仕組みを考えれば、魔法で実現できるかもしれない。

「力を蓄えておける器を作るんだ。必要なときにこの器から力を取り出す。短時間だけど、能力が爆発的に高まる。そんな変身を考えるんだ。」

リサさんは目を見開いた。

「私たちには、魔法の工芸品を作る技術があります。これを利用すれば、秀平さんのいうような器を作るのは、不可能ではありません。」

「では、何も問題はありませんね。今言ったことを煮詰めていけば、かならず、ラブリーナイトに勝つ方法が見えてくるでしょう。」

「いえ、問題はあります。私たちには、あなたのいうような戦闘用の変身に詳しい者がいないのです。」

「僕だって、詳しくありません。今まで見聞きしたことを説明しているまでです。」

「率直にいいますと、私たちに必要なのは、あなたのその知識や考え方だと思います。これから、私たちの協力者として、対ラブリーナイト作戦の軍事顧問となって欲しいのです。」

そういうことか。

変身モノをテレビ・漫画で見たことのない淫魔にしてみれば、ああいう変身は未知の領域ってことなんだな。

「僕の知識や考え方で、いいんですか?この世界にはもっと賢い人間もいると思います。僕なんかにかまうより、そういった人間に頼んだほうが・・」

「他の人間では、信用できません。」

僕はつまり、淫魔の信頼を勝ち取ってしまったわけだ。

「先日のことで分かるかと思いますが、ラブリーナイトは強敵です。連日、じわりじわりと仲間が殺されているのです。」

そうだろうな、あの調子じゃ・・

僕は、真っ二つになった女の子を思い出した。

かといって、淫魔が優勢になれば、人間は淫魔の奴隷になってしまうだろう。

どうする?

「一つ、教えてください。あなたがた淫魔は、僕ら人間を征服してどうするつもりですか。」

「共存共栄できる、新しい世界を作るんです。」

ミーナが答えた。

「我々の庇護のもと、人間が幸福に暮らせる世界が拓かれるでしょう。」

と、リサさん。

僕は、こうもり翼を持ったブロンドのサキュバスが、キモオタを正常位で徹底的に搾り取る様子を思い浮かべた。

こういうのも、彼女たちに言わせれば『幸福な世界』なんだろうなぁ・・

淫魔の庇護か。

今の社会体制と比べてどうだろうか。

悪魔の庇護のもと、生きる人間・・

僕は首を振った。

依頼を受ける気にはなれない。

だが・・

本当に僕を信頼してこんな話を持ち出してるなら、その気持ちを踏みにじるわけにもいかないだろう。僕なりの道徳というものがある。

「僕は、淫魔であるあなた方を完全に信用しているわけではありません。ですが、ご依頼を完全にはねることもしません。まず一ヶ月。あなたたちに協力しましょう。一ヶ月後、協力を続けるかどうか、考えさせてください。」

「感謝します、秀平さん。」

「一ヶ月契約で、納得してもらえたみたいですね。」

「ええ。私も、淫魔の存在をもっと理解してもらえるよう努力します。」

携帯の着信音がなった。

リサさんは、ハンドバックからピンクの携帯を取り出した。

「ちょっと失礼しますね。」

リサさんは、玄関戸から外へ出てしまった。

「あはっ、きっと、ねぇさんからだわ。」

と、ミーナ。

「へぇ、三人姉妹なんだ。」

「ううん、もっと、いっぱい。」

「い、いっぱい?」

「うん。何十人なんだろ〜。とにかくいっぱいよ。」

ギャフン。

「そっか、人間じゃないから、多いんだ?」

「パパとママが、毎週子供作っちゃうから、とっても子沢山なの。」

さっきのキモオタVS淫魔は、あながち間違った妄想でもなさそうだ。

「パパとママって、どこにいるの?」

なんだか、子供と話してるみたいだな。

「うん。遠くよ。電車で2,000円くらいのところ。」

言うほど遠くない。県内だな?

「あたしも、パパとママみたいになりたいな〜って思ってるの。」

「そ、そうなんだ、きっとなれるよ。」

「そうよね。秀平さんがいるもん。」

おい、まて。

「あたしね、可愛い子に化けるのがとっても上手なのよ?」

えっと、キモオタVS淫魔の妄想だけど、秀平VS淫魔に修正。

何も言えなくなった。

「フフフ、秀平さんだって、イチコロなんだから☆ねぇ、試してみない?」

ミーナはそっと立ち上がると、僕のそばにぺたりと座って寄り添う。

「寂しいの。お願い。あたしの奴隷になって?」

待て待て。

予想以上に手の早い子だ。

右側から僕に寄りかかったかと思うと、僕の太ももや胸を愛撫してくる。

背筋がゾクゾクしてくる。

急にミーナが魅力的にみえてくる。

「ウフフフ、ねぇ、目をつぶって・・」

甘えるような声に、僕は逆らえない。

もういいなりだ。

さすがは淫魔。

「お願い、目、つぶってよ〜」

目を閉じる。

魔力を使ってるのか、使ってないのか、凄まじい誘惑力だ。

「理想のお嫁さんになってあげるからね。秀平さんは、もうあたしのものよ。誰にも渡さない。」

心地よい愛撫が眠気を誘う。

「あはん☆今夜はいーーっぱい、エッチしようね!!」

うはぁ、ミーナは耳に息を吹きかけてくる。

たえがたいくらいの眠気が襲ってくる!

待て・・

僕は・・・

まだ・・・

高一なんだ・・



僕は、深い眠りに落ちた。



・・・・・・。

「全く!あなたという子は!!こんなことだから、ますます淫魔に対する風当たりが強くなるのよ!!」

「ちょっとくらい、いいでしょ?こんな優しくていい人、中々いないわ。」

「そうじゃなくて、あなたね、命の恩人と再開の場で手を出すなんて、常識外れだって分からないの!?」

「だって、おいしそうで我慢できないんだもん!!仕方ないでしょ!!!」

ウー・・

ウ?なんだ??

僕は目覚めた。

起き上がる。

僕はソファの上に、着の身着のままで寝ていた。

このソファのそばで、二人の女の子がすごい剣幕で言い合っている。

1人はリサさん、もう1人は・・

ウホッ!!イイ女!!!

両目がハートマークになる僕。

”I LOVE MY SLAVE”とプリントの入った白いTシャツに、かなりパンチラ気味の紺色のミニスカート。腰まで伸びたロングの髪を、赤いリボンで結っている。

身長は僕と同じくらい、ぽっちゃりして肉付きがいい。

太ももも胸もむちっとしてて、ちょっと見てるだけで、いかん気持ちになってしまう。

「ミーナ!ちょっとは礼儀を知りなさい!」

ミ、ミーナなのか?この子が?

さっきまで、どっちかっていうとぱっとしない印象だった、あの子が・・

たいした変わりようだな・・さすがは淫魔。

「あーん、奴隷に礼儀もないもないもん!!」

ちょっとハスキーな声がなんとも色っぽい。

「あなたって子は!!秀平さんはね、私たちの命を助けてくれたのよ!!それをあなた、どれい・・」

リサさんがもう1人の子の襟首をつかんだとき、僕と目があった。

「あ、あら、秀平さん。やだ、私としたことが。」

ぱっと、つかみ掛った手を離すリサさん。

「あん。あはっ!秀平さん!ねー、あたしをお嫁さんにして!!」

ソファで上半身を起こしたばかりの僕に、ミーナは飛びついてくる。

僕の腰の上に座って、柔らかい胸を僕の胸に押し付ける。

「結婚しちゃお?ね?ね?」

にこにこしながら、僕の唇を吸おうと顔を近づける。

と・・

ミーナの頭はがくんと下がり、僕の胸の中に落ちた。

僕が慌ててミーナを抱くと、彼女は眠りに落ちていた。

「本当に、しょうがない子ね・・大丈夫、魔法で眠らせただけです。」

僕が頭をあげると、リサさんは腕組をして苦笑いした。

「まだこの子は、生まれたばかりなのです。だから、なんというか、自分に正直なんです。人間の子供だって、そうでしょう?」

「見かけは、女の子って感じだけど・・」

「中身は、淫魔でいえば赤ん坊なんです。」

「へぇっ。でも、たいていの男なら、騙されていいなりになっちゃいそうだな。もちろん、僕も含めてね。」

「ミーナはあなたにとても懐いているんです。だから、そばにいたいんです。」

「気にいったのかな、僕のこと。」

「そうね。この子の心の中では、あなたは、英雄なのよ。」

「そんな、僕はただ・・あのときは、必死だっただけです。」

「私の目にすら、勇者として写ったわ。ましてや、ミーナにしてみれば・・」

「ふにゃぁ・・もっと、えちして・・」

ミーナは、かなり過激な夢を見ているようだ。

「どうします?その子、置いてきます?それとも、つれていきます?」

「・・・・」

「淫魔と交わった人間は、人間の異性と子供を作れなくなります。淫魔の出す瘴気が、人間の体を変えてしまうのです。もしミーナを抱けば、あなたは、人間の女に興奮しなくなるわ。」

僕は黙った。

「もっとも、興奮以前に、他の女を抱く気なんか起きなくなると思うけどね。」

正直、こうしてミーナを抱いてる感覚は、甘美で心地よい。

ほのかに香るローズの香り。

美しく艶のある髪。

僕はミーナの虜となって、見入ってしまった。

「ふふふふ、ではこうしましょう?私は姿を消して、しばらくここに住みます。ミーナとあなたの監視役として、ね。でも、二人が交わるのを邪魔するわけじゃない。あなたは好きなようにしていいの。ただし、今お話したペナルティのことは覚えておいてね。」

「じゃあ、今日からミーナはここに?」

「そう。だってあなたは、そう望んでるんでしょ?」

僕は簡単に、淫魔に魅了されてしまった。

まだ生まれて間もない、未熟な淫魔に。

悔しいが・・この美しさ、気品のある顔立ちには抵抗できない。

そして、この魅力的な体つきと、滑らかな白い肌。

見れば見るほど、耐えられなくなってしまう。

ああ、めちゃめちゃ可愛い・・

少し力をいれて、自分のほうへ引き寄せる。

全部、僕だけのものにしたい。

「にゃふぅ・・」

寝言なのか、寝息なのか、聞いてるこちらが癒されるような声。

これが、悪魔だっていうのか。

信じられない。

僕はうっとりとして、ミーナを抱きつづけた。

どれだけミーナの寝顔を覗いていたんだろう。

気が付くと、そばに立っていたはずのリサさんはいなかった。

時計を見ると、12時すぎている。

昼飯の時間だ。

僕はミーナの両肩をそっと掴んで、ソファの上に寝かせた。

僕が今までみたどんな女性よりも、美しかった。

僕の目の前に存在すること自体、信じられない美しさだ。

そうだ。

毛布でもかけておいてやろう。

悪魔だって、風邪ひくかもしれないからな。

寝室に入り、自分のベッドから毛布を剥ぎ取る。

背中で誰かの気配を感じる。

「見つけたぞ♪逃げたって無駄よ!」

その声に振り向くと、寝室の入り口でミーナが立っている。

もう目覚めたのか。

自分の部屋で女の子がうろうろしてるって、すごい状況だな・・

「ねぇ、ねぇさん、知らない?いないみたいなのよ。」

「いつのまにか、いなくなってたみたい。姿消して、僕らのこと監視するぞって、言ってたけど。」

ミーナはため息をつく。

「もう、性格悪いなぁ〜。まぁ、あたしはあたしで、好きにさせてもらうけどね。」

「好きにって・・何するんだよ。」

分かりきったことを聞いてみる。

「例えば、そうねぇ、お昼ご飯作ってあげたり。」

予想した答えと違うけど、結構嬉しい。

「え、作ってくれるんだ。」

「うん、ペットのえさくらい、ちゃんと作ってあげるわよ。」

相手がこれだけ可愛いと、もう好きなだけペット扱いして下さいって感じだ。

結局、ただ見てるのも我慢できず、一緒にキッチンで食事を作った。

ただの焼きそばだけど、二人で作るのは楽しい。

本当にこの子、淫魔なんだよな?

なんか、遊びにきた同級生みたいな感じがしてきた。

二人で向かい合ってテーブルにつく。

「いただきまーす。」

「はーい、めしあがれ♪」

家で二人で食べるなんて、すごく久しぶりだなぁ。

「おいしい?」

ミーナは、自分でも食べながら聞いてくる。

「うん。キミも、おいしいでしょ?」

「自分じゃよくわかんない。あは、今、お腹いっぱいだし。」

「えっ、何食べたの?」

「あなたの精気。」

うひっ!!

「あたしのこと、ずっと抱いててくれたでしょ?だから、だいぶ吸収しちゃったわよ。」

なるほど!道理で朝より行動がおとなしいわけだ!

「器用だね・・寝ながら吸収できるんだ。」

「そう。触られたり、抱かれたりするだけで吸えちゃうの。でも一番おいしい食事は、ね?分かるよね。」

「う、うん。でもさ、食事する相手って、誰でもいいのか、それとも、かなり相手選ぶのかな。」

「人によりけりよ。あたしは、人見知り激しいほうよ。」

ちょっと安心する。

「これから、何回もお世話になると思うけど、よろしくね。」

「うぐっ、え、ええ、うん・・」

「あはっ、びっくりしなくていいの。最初からあたしをお嫁さんだと思えばいいじゃない。ちょっと若いあたりが、初々しくていいでしょ?」

そういって僕にウィンクしてくる。

「あのね、僕らの社会じゃ、キミくらいの年頃の娘さんに手を出すのは、犯罪なんだよ。」

「そっか。それじゃあ、早くあたしたちが世界征服しないとだめねぇ。」

毎日こんな会話してたら、淫魔の思考になりそうだ。

「でも、そのためにはまずあいつを倒さないと。」

楽しげな雰囲気が、彼女の周囲から消える。

「ねぇさん、どこいったのかしら。せっかく秀平さんが相談にのってくれるって言うのにね。」

「リサさん、携帯で話してたでしょ。ひょっとしたら、対ラブリーナイト作戦を開始したのかもしれないよ。」

「まさか。早すぎるわ。ねぇさん、そんな行動力ないわよ。」

「失礼しちゃうわ!」

リサさんは怒声とともに姿を現し、食卓のほうへ歩いてくる。

「何を根拠に行動力がないっていうのよ。」

「えっと・・それは・・」

言葉を濁すミーナ。

結構、何も考えないで言ってるな、この子。

「いいかげんなことばかり言って。呆れちゃうわ。あなた、もっと大人になりなさい。」

「一人前よ。一応。」

「どこが。」

リサさんはリサさんで、ミーナの逆鱗に触れることをいう。

ミーナが殺気だつ。

「あ、あのリサさん!!どうしたんです?ここに来たからには、何かあったんですよね。」

「え?ええ、そうよ。早速変身に使えそうな魔法のペンダントを持ってきたの。」

はやっ!

行動力溢れてますね。

「ペンダント・・女の子の変身にはうってつけのアイテムですね。」

「そうでしょ?我ながらいい選択だと思ってるわ。ほら、これよ。」

そういってリサさんは、自分のしていたペンダントを僕に渡す。

銀色の鎖に、小さな逆十字がぶら下がっている。

「普通のアクセサリーみたいですね。」

「そうね。でも、秀平さんがいったように機能するわ。このペンダントを握って、秘密の言葉を唱えることで、力が解放される。もちろん、今は力が封入されていないから、何も起こらないけどね。」

「どうやって力を蓄えるの?」

「このペンダントを身につけて、異性と行為すればいいのよ。」

「わお!最高!!」

正直言うけど、最低だよ。お姉さん。

「だから、パートナーが必要なの。」

「愛する二人がいて、やっと変身できるわけね!」

「そうよ。人間の秀平さんには違和感のあると思うけど、私たちにとっては、わりと分かりやすい仕組みよ。」

「もうちょっと、なんとかならなかったんですか?」

「これが一番手っ取り早かったのよ。」

「で、誰がこれを使うの?」

リサさんは、一呼吸おく。

「びっくりしないでね。ミーナ、あなたなのよ。」

「えっ!?」

僕とミーナは声をあわせた。

「ど、どうしてそうなるんですか?」

「お母さん直々のご指名なのよ。」

「ママが・・・どうして?」

「ごめんねミーナ、私にも分からないの。どうして生まれたばかりのあなたが・・」

「変身するだけならともかく、変身して戦えってのは、おかしいよ。」

僕の言葉にリサさんは、目を伏せる。

「私もそう思うけど。でも、お母さんはそう言ったそうよ。」

「ママぁ・・」

ミーナは俯いて、しょぼんとした。

「きっと、何か考えがあるんだわ。お母さんのことだもの。」

「うん・・」

リサさんは、ミーナの肩をぽんと叩いた。

・・いくらなんでも酷過ぎる。

あのとき。

ラブリーナイトが現れたとき、ミーナはショックで何もできなかった。

そのミーナに、先陣を切って戦えというのか。

そこにどんな考えがあるっていうんだ。

無謀以外のなにものでもない。自殺行為だ。

「変身の実験をするだけなら、僕は協力するけど、変身して戦えっていうなら、僕は協力しないよ。絶対に。」

「分かってるわ。」

「そうですか、なら、いいんです。」

「まずは、私たちでいい実験結果を出しましょう。お母さんに異議を申し立てるのは、そのあとの話ね。」

「うん・・」

ミーナの返事は、虚ろだった。


<次に進む>

<1>-<2>-<3>-<4>-<5>-<6>-<7>-<8>

ソンム製作所のホームページはこちら