『悪のヒロインとエッチしましたが何か問題でも?』

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本SS(短編小説)は、2011年から2015年ごろまでwisper様に掲載されていた作品です。
挿絵については、絵を制作された鈴輝桜様に許可を頂いて掲載しています。

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ミカは足を止める。

娘はなおも走ってくる。

敵は相変わらずの瞬発力で、すぐにミカの目の前にたどり着いた。

「またあんたたち!?ひどいことやめないと命の保証はないわよ!」

「おまえに命の保証をしてもらう筋合いはない。」

ミカは淡々と答える。

相手の娘の名はユカリ。

この街に出没する変身ヒロインの中で、最強の実力を持つ少女だった。

少なくとも、ミカが現れるまでは。

先週の戦闘はミカの初陣であり、またユカリとの初対戦であった。

結果はミカの圧勝。

ユカリを再起不能に追い込んで、ミカは彼女を後にしたのだった。

「言ったはずだ。再び私の前に現れるなと。」

「この前のようにはいかないよ!」

「では、見せてもらおうか。今日のおまえがどこまでできるかを。」

ユカリは蒼い炎、ミカは黒い影に包まれ、それぞれ戦闘コスチュームを身に纏う。

ミカ

「相変わらず、サキュバスらしいというか、いやらしい服よね。」

軽蔑するようにユカリはミカの腰を見た。

ミカのミニスカートはちょうど女性器のあたりで左右に割れ、下に履いているブルマーや黒タイツがあらわになっている。

一方ミカは、相手のプリーツスカートが紺色からチェックに変わっていることに気づいた。

(先週とは打って変わって、だな。個人的には、紺のほうがいい・・・)

敵を嘲笑しようと視線を上げると、目と鼻の先に剣の切っ先が飛び込んでくる。

「!?」

反射的に顔を反らす。 細身の剣はサキュバスの右頬を斬りつけ、見てはっきりと分かる切り傷を作った。

ミカが飛び退くと、頬の傷から白い体液がにじみ出た。

大通りに敷き詰められたレンガに飛び退いて態勢を立て直す。

「ん?」

視界からユカリが消えた。

「遅い!!」

声のする方向は上。

見上げると、剣を構えたユカリが降ってくる。

気づくのが遅かった。

正義の変身ヒロインの剣は、ミカの右肩を正確に捉え、斬った。

ぼと、と鈍い音を立ててミカの右腕が落ちた。

同時に、サキュバスの右肩に無数の苦痛が突き刺さり、真っ白な血液が噴き出る。

無意識のうちにミカは悲鳴を上げていた。

今日、この商店街に響いた声のなかでもっとも悲痛で鋭い叫び。

心理的な衝撃が大きすぎて、変化の術が解ける。

ミカの美しい姿はいまや、忌まわしい化物に変わっていた。

緑の肌、背中に生えたコウモリの翼、だらしなく裂けた口、真っ赤な目。

その化物の前で、再び銀の一閃。

ユカリの剣は、ミカの首を切り落とした。

サキュバスの首が地面に転がり、体はがっくりとうつ伏せになる。

「あたしの勝ちね。」

「見事だ・・・さあ、とどめをさすがいい。」

サキュバスの首はゴボゴボと白い泡を吹きながら、ユカリに語りかける。

「それはしないわ。あなたは、一回あたしを見逃してるでしょ。だから、借りを返す。」

「私を生かしておけば、また面倒なことになるぞ。本来、戦いに情けは禁物だ。」

「じゃあ、なぜ前はあたしを見逃したの。」

「貴様を生かしておけば、また強くなって私の前に現れると思ったからだ。強い相手と戦うのは楽しいことだ。」

「じゃあ、今は楽しいんだ?」

「いや、楽しむには強すぎる相手だ。なぜ・・・なぜこれほどまでに強くなった?この強さはいったい?」

サキュバスの口からは唾液のように血液が滴っている。

「あたしには守るべきものがある。この街も、家族も、大事な人も、守らなきゃいけない。」

「ふん・・・」

「サキュバスなんかにされてたまるもんか。大事な人をサキュバスに取られてたまるもんか。守るべきものがあるから、負けられないの。」

「くだらないな。ただそれだけで強くなれるわけがない。」

「ただそれだけのあたしに、あなたは負けたの。」

「ふんっ、納得したくはないが。信じられん強さだ・・・」

遠くで女の悲鳴が響いた。

「大変!あんたとおしゃべりしてる場合じゃないわ!皆を助けなきゃ!」

すさまじい速さで正義の戦士は走り去っていく。

気配が消えたところで、ゆっくりとミカの体は起き上がり、顔を大事そうに抱えた。

「なんという屈辱。変身を破られ、情けまでかけられるとは。」

首の付け根からは、ジクジク、ジクジクと体液が漏れている。

突然、サキュバスの右腕のG-SPOTが電子音を鳴らす。

「13:06。陽動作戦は成功だ。戦術で負けても、我々は戦略で勝った。戦略でまされば、戦術の敗北は致命傷ではない。」

化物の裂けた口は、不敵な笑みを作った。


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