『悪のヒロインとエッチしましたが何か問題でも?』
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本SS(短編小説)は、2011年から2015年ごろまでwisper様に掲載されていた作品です。
挿絵については、絵を制作された鈴輝桜様に許可を頂いて掲載しています。
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昼休み。
げっそりとした表情で、ユウキは学食から出てきた。
何を食べても喉を通る感じがしない。
ミカに会いたくて落ち着かないのだ。
今朝起きてから、頭の中では延々と昨晩の情事が再生されている。
(会いたすぎる!会いたくて会いたくて頭がおかしくなりそうだ!)
教室に戻る途中、廊下でユカリに捕まった。
「ユウキくん!大丈夫!?顔色悪いけど、なにかあったの?」
「い、いや別に。」
「今にも死んじゃいそうなくらいやつれちゃってるよ?いいオトコが台なし!」
「うーん、ゲームしすぎたかな。」
「うそぉ。そんなんじゃないよ絶対。まるでサキュバスに襲われたような!それくらい酷いよ。」
「きのせいだっつーの。」
「違う!何かあったよ絶対。」
(こいつ、なんでわかるんだよ!)
「本当にサキュバスに襲われたんじゃないよね!」
「襲われたらここにいないだろ!」
「うーん。どうだろうね。そうだ、いつもの場所にいかない?」
逃げるわけにもいかない。
仕方なくユカリに連れられて、図書室倉庫にやってくる。
図書室のカウンターの奥には、倉庫がある。
図書委員長であるユカリは、その権限を最大限に発揮し、この倉庫をサキュバス対策会議に使用していた。
都合のいいことに、倉庫は図書室外からも入ることができる。
図書室の利用者たちの目に触れることなく、こっそりと倉庫を利用できるのだ。
ユカリは内側から倉庫のカギを閉めた。
腕組みして、ユウキを見据える。
開口一番。
「サキュバスとエッチなことしたでしょ?」
「えっ・・・」
ユウキは冷水を浴びせられたような気分になる。
「まあ、気持ちは分からないでもないけど。さぞかし可愛い子だったんでしょ!」
「う・・・・」
「まあね!ユウキくんはあたしと違ってモテるから!サキュバスが寄ってくるのも分かるんだけどっ!」
ユカリの視線が、ユウキの肌に突き刺さる。
「どうせ、今日も会いにいくつもりなんでしょ?なーんか今日は上の空だなあって思ってたけど、そっか、サキュバスのことが頭から離れないんだ。」
「ま、まて。勘違いだって。」
ユカリは少し左手の袖をまくって、銀の腕輪を見せる。
銀の腕輪には小さな宝石が嵌めてあって、それは真っ黒に染まっている。
「黒。この色は初めてよ。あたしの相棒の生命力は、ほとんどないってこと。あたしも気づくのが遅くて悪かったけど。」
リンケージという名のこの銀の腕輪は2つで1組。
一つはユカリが、もう一つはユウキがはめている。
ユウキも腕まくりをして、隠すようにはめている腕輪を見た。
確かに、宝石の色は黒い。
いつも眩しいほどに透き通った緑色を映しているのに。
原因はミカとの性行為しか考えられない。
「普通に生活してたら、こんなの絶対ありえない。サキュバスがユウキ君から生気を吸い取ったんだよ。状況、詳しく教えて。」
「・・・」
「サキュバスを倒さないと、人間は皆滅んじゃうんだよ。分かるでしょ?」
「・・・」
「もう!どうして教えてくれないの!?」
「・・・」
「分かった。じゃあ交換条件。ユウキくんに悪さしたサキュバスを傷つけないようにするから、教えて。」
「・・・ほんとか?」
サキュバスといっても上級から野良・モドキ、ピンからキリまである。
知恵があり、かつ穏やかな性格の者であれば、ユカリたちはむやみに殺さない。
魔法の品を使えば、サキュバスを奴隷にすることができるし、その魔力を利用することもできる。
魔力を利用する―――
この一点において、サキュバスを生け捕りにすることには意味があった。
もっとも、一番悦ぶのはサキュバスを飼う男であるが。
無害となったサキュバスが、自分だけの奴隷になるのだから堪らない。
この街ではいくつもの部隊が組織されていて、サキュバスとの戦いを人知れず繰り広げている。
ユウキとユカリもその一員だ。
ユウキも、奴隷にされたサキュバスというものを何度かみた。
男と奴隷にされたサキュバスはすぐに結婚してしまう。
それ以外、お互いの正気を保つ道がないのだ。
「本当だな?」
「約束するわ。悔しいけどね・・・」
「昨日、女の子に会ったんだ。ミカさんって子で。」
「ミカ!?ミカって言った?」
「ああ。すごく可愛い子なんだ。」
「ミカ・・・うーん、アイツ・・・そうきたのね。」
ため息が漏れた。
「そのミカって子は、多分、あたしの知ってるサキュバスよ。この間首切ってやったばかりなんだけど。元気になってまた出てきたのね。」
「サキュバスって決まったわけじゃない。」
「すぐに分かるわ・・・絶対絶対、化けの皮を剥がしてみせる!」
「待てよ、落ち着け。それで、俺はどうしたらいいんだ?ミカさんに会いにいっていいのか?」
「そうね。うーん。いいよ、ミカに会いに行って。会いたいでしょ?」
「ええっ!?い、いいのか?」
「どうぞ。あたしよりサキュバスがお好きなんでしょ?だったら、好きにすればいいの。」
イヤに刺のある言葉が、ユウキの耳に残った。
放課後のチャイムの直後、ユウキはいつも以上に足早に校門から出た。
ミカに会いたくて仕方ない。
ミカを抱きしめたい。
そしてあの体を味わいたい。
ユカリにバレてもなおミカと会いたかった。
午後にメールは送っていて、コンビニ前で待ち合わせする時間を決めていた。
片側二車線の交差点の歩道を渡り、ビジネスビルの並びを抜ける。
昨日ミカにあったコンビ二が見えた。
入り口から少し離れたところに、人が立っている。
ユウキの足取りはどんどん速くなり、いつの間にか駆け出していた。
ミカもこちらを見つけて手を振った。
昨日会ったばかりにしてはあまりにも仲睦まじい様子だが、ユウキは違和感を感じなかった。
(好きなんだからしょうがないよ!)
むしろ、好みの娘に受け入れてもらったことが嬉しくてたまらない。
「ユウキさん!会いたかったぁ。」
「俺も・・・!」
ミカは大胆にも抱きついてくる。
「会いたくて会いたくて死にそうだったよぉ♪」
軽く頬にキスをしてくる。
「俺も!」
ぎゅーっと抱き合って、ミカのぬくもりと香りを堪能する。
「あはぁっ!ユウキさぁん・・・」
「ミカさん、ミカさん!」
通行人がいないのをいいことに、抱き合って体を擦りつけあった後、軽く口付けを交わす。
「ああっ、あたしたち、恋人通り過ぎちゃったね。」
「相性いいから。俺たちほんとバッチリだよ!」
「うん!」
ユウキの理性も本能も、ミカを将来の妻に定めてしまった。
もう、ユウキが守るべき人は、このセーラー服の美少女であってユカリではない。
「ミカさん、今日は聞いてほしい話があるんだ。」
「なぁに。イイこと?」
「いや、危ない話なんだ。だから、早く・・・」
ユウキの眼と鼻の先で、ミカはキョトンとしている。
「はやく。部屋にいこう。」
ユウキはミカの手を引く。
早足で昨日通った路地を急ぐ。
ミカのアパートに着くなり、階段を駆け上がって建物の中に入った。
「どうしてそんなに急ぐの?」
「君の敵が来るかもしれない。」
「敵?どんな敵かしら。」
ミカは部屋のドアを解錠した。
玄関で靴を脱いだミカはすぐベッドの縁に座った。
ユウキもそばに座る。
「ユウキさん。」
ミカは抱きついて、肩に腕を絡めてくる。
「正直に教えて、ミカさん、サキュバスなんだよね?」
「えっ・・・」
「ユカリと戦ったこと、あるんだろう?」
「ん・・・」
ミカは目をそらして黙った。
ユウキには、もうそれだけで十分だった。
「今日にも、ユカリがここにくるかもしれないんだ。」
「・・・・・・」
「ごめんねミカさん。ユカリにバレちゃって。でも、ミカさんのこと好きだから。ユカリに倒されてほしくないんだ。」
「こうしてユウキさんの側で死ねるなら、それはそれでいいかも。なーんてね。」
「だめだ!死ぬなんて!俺が許さない。」
「フフフ。君からユカリのことを聞き出すつもりが、見破られた上に情をかけられるなんてね。」
「でも、正直なんだ?シラを切ったりトボけたりしないんだ?」
「そんな必要ない。私がサキュバスだろうがなんだろうが、あなたの心は私のもの。」
ユウキの鼻がミカの鼻先に触れる。
少しの間お互いの舌を絡めて水音を鳴らし、淫らな愛情表現を楽しむ。
ふと唇が離れ、ミカの体が後ろに引いた。
「ユカリは急に強くなった。その理由はなぜ。」
「これだ。このリンケージって腕輪さ。」
ユウキは学生服を脱ぎ捨て、Tシャツ一枚になる。
割と逞しい右腕には、銀に輝く腕輪がはめられていた。
「ユカリが変身すると、この腕輪が俺のエナジーを送るんだ。」
「ユウキさんの精気をユカリが奪って強くなる・・・ということ?」
「そうだ。」
「ふふん、そうか。我々サキュバスと大して変わらないではないか・・・」
「この腕輪さ、ユカリもつけてるんだ。」
「おそろいね。まるで恋人みたい。」
「ううん、俺、ミカさんの奴隷になりたい。」
ユウキは彼女の頬に何度もキスをする。
目を合わせると、ミカの頬は紅潮し、幸福で胸がいっぱいのように見えた。
「ユウキさん。私はサキュバス。いずれ、あなたを奴隷にしてみせる。」
「うん・・・」
「でも今は、私たちの幸せを邪魔するものがいる。今はともに戦おう。」
「君に協力する。」
「ありがとう。では早速・・・その腕輪を外してほしい。」
「ごめん、外れないんだ、これ。ユカリしか外せないんだ。」
「魔法の品か・・・ふむ・・・」
「だけど、ミカさんに生気を吸われたせいで、色が黒くなってるんだ。いつもは緑なのに。」
「なるほど。生命力を失うと、この腕輪の力も減衰するわけか。ということは。今のミカは弱い・・・」
「そうだ。それどころか、俺の生命力が極端に少なくなると、ユカリから俺にエナジーが供給されるんだ。」
「ふむ。それは愉快だ。ユウキさんを吸えば吸うほどユカリは弱くなる。」
「でも油断は禁物だよ。」
「今回はユウキさんに手をかけるのだから、ユカリの脅威は想定している。この部屋は狭いが侵入者用の罠ばかりだ。」
「罠か。可愛いけど用意周到な子なんだな。」
「今、ユカリがここにきても大した力は発揮できないだろう。むしろ・・・」
「ユカリは自分自身の力で戦える。だから、甘く見ないほうがいいよ。」
「ふふん。この部屋に足を踏み入れれば、罠が発動する。私は、相当弱いユカリと戦うことになる。勝敗は自明だ。」
「でもひとつだけお願い。ユカリをあまりいぢめないでほしいんだ。」
「なんだそれは。どうしてそうなるんだ。ユウキさんはユカリが気になるのか?」
「幼なじみでさ、長い付き合いなんだよ。」
「私がいればそれで十分だ。私たちにとって、ユカリは邪魔な存在のはず。」
「まあそう言わずにさ、ね?」
「うむむ。納得できない。ユウキさんはミカだけのものなのだ!」
「ミカさんだけのものになるから、ユカリをいぢめないで。」
「全然納得できない。どうして?この世界にミカがいれば、ユウキさんは満足じゃないのか?ユカリもこの世界に必要なのか?」
ユウキはミカを強引に押し倒す。
「あんっ・・・」
「ミカさん、身も心も捧げるからユカリをあんまりいぢめないで・・・」
ぷいぷいと首を振るミカ。
「やだやだっ。ユウキさんにはミカだけがいればいいのっ!ユカリなんか死んじゃえ!!」
「だ、だめだよ殺しちゃ。」
「うううううううううう!そんなにユカリが大事なら・・・!」
「ミカさんも、ユカリも、大事なんだよぉ。」
「それなら、体で示してもらう!体で示せないなら、ユカリの命はそれまでだ!」
「な、なに・・・」
突然、ぴこーんという音が部屋に響く。
一部ヒビの入った白い壁に、映像が投影される。
街を背景にして女の子の歩く姿があった。
ベッドで抱き合う二人は、ほぼ同時にその女の子の名前を口走った。
「ユカリっ!?」
映像の下には見慣れない赤い字が羅列され、時々刻々と流れていく。
「相対距離は約200メートル。ユウキさん、どうやら私とユカリの戦いは避けられないようだ。」
「戦わなくても気持ちは決まってる。俺はミカさんが大好きだよ。」
「では、その気持ちをさらに確実にするため、ユカリの存在そのものを消してみせる。」
「だめだ、あいつは俺の友達なんだ。大事な友達なんだ。」
「その大事さとやらを、体で示していただくつもりだから。覚悟するといい。」
そういうと、サキュバスはユウキを押し返し、乱れた制服を整えた。
「愛する者を賭けた戦い。ふふふっ、こんなに興奮する勝負は他にないな。」
腰まで伸びた長い髪をすっと払うミカ。
すると、ミカが触った髪が帯のように太くなって、ユウキに巻き付いて動きを拘束する。
腕にも脚にも絡みついて、強制的に寝袋に押し込まれたように、ベッドの上でじたばたする。
「どうだ。私の髪の香りを存分に堪能するといい。」
「う、く、髪が締まってくる!?」
「大丈夫だよ。痛くないところで止まるから。少しだけ我慢しててね。ユカリが来るまでの間の辛抱だから。」
ミカの言うとおり、ユウキの動きを完全に拘束したところで髪の帯は締まるのを止めた。
「お、おおっ・・・」
少しだけ緩んで、楽に仰向けになれる。
一呼吸すると、髪の甘い匂いが鼻孔を満たし恍惚としてしまった。
我に返ると、ひざを折ってミカが側に座っている。
「好きなものは自分だけのものにしたい。それは、あなたもあたしも同じでしょ?」
言われてみれば、そんな気がする。
「どっちか一人だけ。大事な人を選んで。」
「うん。そうしたい。答えは出てるのにな。なぜか・・・どうしてなんだろう。ユカリは失えない。」
「ユカリを失ういい方法を、一緒に考えようね。」
「うん・・・」
ミカの声、言葉、一言一言が心地よい。
100%彼女に同意しているはずなのに。
ほんのわずかなこだわりが生き残っていた。
今まで積み重ねてきた信頼とか友情というこだわり。
捨てようとしても、それは手の平にくっついて、なかなか捨てられないのだ。
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